二重帳簿を駆使して税金を払わないベトナム企業、正しく払ってベトナムに尽くす日系企業

tax ベトナム経済

先日社外の方と雑談していたときの話。経理担当の社員の採用募集をかけたところ、「私はキレイな二重帳簿をつくることができます」とハッキリ自己アピールしてくる人がいたと聞いて大いに笑いました。

実にローカル非上場会社の9割以上が二重帳簿(or裏帳簿)をつけているといわれているベトナム。今回はそんなベトナムの二重帳簿・裏帳簿(以下、二重帳簿で統一)や税金周りの事情をごく簡単にご紹介します。例によって僕は経理や政策の専門家ではないのでザックリいきますからね。…毎回素人であることを免罪符にしている僕は一体何の専門家なんだと自問自答しちゃう。

二重帳簿のしくみとその目的

二重帳簿とは、一言でいってしまえば「本来の取引をそのまま反映させた帳簿とは別に、不当に利益を少なく見せかけた帳簿をつくること」です。利益を少なく記したウソの帳簿がオモテに現れ、実態を示した帳簿がウラに回るということです。勤めている現地法人で費用精算をするとき、ほぼ必ずレッドインボイス=赤い領収書をもらいますよね?アレがあるから支払う側は費用(損金)として認められますし、提供した側には売上が計上されるわけです。

領収書を発行せずに現金で対価を受け取ったり、会社の銀行口座ではなく役職員またはその関係者の個人の口座に振り込んでもらい、売上を認識できなくすることで見かけの利益を少なくすることができます。また費用を水増しして計上することで同様に利益を少なく見せかけるケースのほか、まあいろいろとちょろまかす方法があるようです。

なぜそんな面倒なことをするかというと、ずばり「税金逃れ」のためです。実態より利益を少なく見せることで、減った分の利益にかかる法人税の支払いを逃れることができます。そして余分に貯まったお金が役職員(まあ大体は経営者でしょう)に流れた場合、その分の所得税も当然申告されないことになります。こうして不当に貯められた余剰資金で不動産なんかを買うとあら不思議、キレイな資産の出来上がりです。不動産が飛ぶように売れるわけだ。。

(なんか見てはいけないものを見てしまった体験をした話はコチラ↓)

税金逃れの副次的な目的としては、費用に計上できない支払いのためというのもあり得ます。代表的なものとしては裏金・賄賂。裏金がないと事業がどうにも成り立たない産業のローカル企業にとって、帳簿に載らない余剰資金をせっせと作っておかなければならないというのはけっこう切実な問題といえます。賄賂を払わないと自分(の待っている許認可など)の番が一向に回ってこない→みんな裏金払う→みんな二重帳簿やる、という図式ですね。

税収があがると国全体が豊かになる

二重帳簿やって支払うべき税金をポッケに入れてハッピーな会社や経営者と、その一部を裏金としてせしめるハッピーなお得意先や公務員のウラ、で割と食うのは税収が減った国、ひいては一般市民ということになります。税収が少ないから病院などの公共施設や社会福祉がいきわたらず、道路や橋などの交通インフラが進まない。国にカネがないから公務員の給料も少ない→だから裏金を要求する→税金逃れで裏金つくる→税収が上がらないの悪循環。国民のために税金をたくさん集めたい国、のために働いている公務員自体が税収増を阻んでしまっている。。

逆に、税収が上がるとどうなるか。社会福祉が充実すれば、貧しい人や病気の人、お年寄りなどの社会的弱者の負担を軽くすることができます。道路が広くなったりメトロが何本も通るようになれば交通渋滞は改善され、新しい高速道路や橋が建設されれば物流網はますます発展して多くのモノが行き渡り、より多くの土地が有効に活用されて結果的に経済はもっと力強く成長することになるでしょう。

こうした中、ベトナムの現指導体制は税金逃れのひとつの温床ともいえる汚職撲滅に相当な心血を注いでいます。その真の目的がどうであれ、またその撲滅運動による副作用については別として、今日の実態が少しずつでも正常化していけばよいですね。詳しくはコチラ↓

日系(外資系)企業の活躍はベトナムの発展につながる!

とはいえ持ちつ持たれつのローカル企業に対する税務調査は未だゆるく、ローカルからの税収が大きくは期待できない一方で、その分外資系企業からはガッツリ税金を取っていきます。税務調査や税関帳簿でなにかとイチャモンをつけては莫大な追徴金と遅延利息を刈り取り、ローカルより比較的高給である外資系社員(特に駐在員)の個人所得税はあっという間に最高税率に。コンプラを徹底的に遵守することが至上命題とされ、どうやっても裏金を払えない日系企業はただただ歯を食いしばって高額な税金を納めるしかない運命にあります。例外はありますが…。

なんとも腹立たしい現状ではありながらも、なんとか少しでもポジティブにいきたいものです。こう考えるのはどうでしょう。「自分たち日系企業がベトナムでもっと活躍して、そのサービスや技術で人々のくらしを豊かにしていくのはもちろん、正しい取引を増やしてベトナムの税収も増やしていくことでも国全体を豊かにしていく」んだと。日系企業と取引をするローカル企業は、少なくともその取引においては正しく計上せざるを得ません。税金をちゃんと払ってもじゅうぶんなくらいに儲けさせて、裏金を受け取らなくてもじゅうぶんに豊かな生活ができるくらい公務員の給料を上げてやりゃあいいんじゃあ!

おわりに

そういった文化が徐々に根付いていけば、不当に莫大な財産を築く不届き者は減っていき、その分が巡り巡って善良な市民に正しく平等に環流されていくはずです。そしてベトナムという国自体もどんどん豊かになっていく。まさにそれこそが、本来ベトナムが目指す「社会主義」の実現に近づく確かな一歩なのではないでしょうかね。

補足

ここからは補足というか蛇足。実際数字で見るとどうなの、ということでベトナムと日本の税収周りをちょろっと比較してみました。数字はどちらも2021年、為替レートも同年のものを使用しています。ベトナムの税収合計は5.3兆円、日本は57.4兆円。その差は10.8倍ということで、1人当たりGDPの差が10.6倍であることを考えればほぼ同等といったところ。国民1人当たりで差の倍率を見ていくと、税収合計は約8倍、法人税は約5倍と意外にも貢献しています。がしかし、やはり個人所得税で約25倍と相当な開きが出ていることがわかります。日本は税収に貢献していないジジババが多いスーパー高齢社会だからかなと労働人口当たりで比較してみても大きな違いは見られず。総人口に占める労働人口の割合がベトナム57%、日本54%と実は大して変わらないんですね。日本がコロナでずいぶん打撃受けたからかなと思って2019年に遡って比較もしてみましたが、ここでも結果はあまり変わらなかったことも加えておきます。

2021年実績ベトナム日本倍率
総人口9817万人1億2567万人1.3倍
労働人口5615万人6822万人1.2倍
労働人口/総人口57%54%
1人当たりGDP3,725ドル39,340ドル10.6倍
税収合計5.3兆円57.4兆円10.8倍
所得税0.6兆円18.6兆円32.4倍
法人税1.4兆円9.0兆円6.5倍
総人口当たり税収合計54,332円456,710円8.4倍
総人口当たり所得税5,841円147,993円25.3倍
総人口当たり法人税14,054円71,610円5.1倍
労働人口当たり税収合計94,989円841,383円8.9倍
労働人口当たり所得税10,211円272,643円26.7倍
労働人口当たり法人税24,571円131,924円5.4倍

参考資料

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