このタイミングで「ベトナムの国葬」について紹介しようじゃないか

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ブログを始めて約9か月、おかげさまでにほんブログ村のベトナム情報カテゴリーで前回の記事が初めてランキング1位を獲得しました。日頃よりお引き立ていただきありがとうございます。超気合い入れてめっちゃ調べ物して書くと全然読まれず、テキトーに書いたやつがやたらと伸びるというパターンに漏れずに、ベッドでゴロゴロしながらスマホでポチポチ書いた記事なのに申し訳ありません(本当はどの記事もだいたいゴロゴロしながらスマホで書いている)。

さて、安倍元首相の国葬が来週に迫ってきましたね。ベトナムからはフック国家主席が出席するようです。そして本日からは英国でエリザベス女王の国葬が執り行われます。日本国内でこんなにも「国葬」が話題に上ったことって今までなかったんじゃないでしょうか。

日本では安倍元首相の国葬に対して未だにいろいろと議論を呼んでいるようですが、ベトナム共産党による一党独裁のここベトナムでは国葬の議論などどこ吹く風。党の決定に誰も文句は言いません(言えません。。)。今回はベトナムにおける国葬について簡単に紹介していきますよ。政令でけっこう細かく規定されていてなかなか興味深いです。

ちなみにニュース以外で、ベトナムの国葬について解説した日本語の記事はこれまでになさそうです(Wikipediaには「国葬」の項目でちょろっとだけ書いてある)。これからもオリジナリティある記事をお届けしていきますよ。

ベトナムは国葬がめっちゃ多い!

北ベトナム以降の近代ベトナムは、現在までに18回もの国葬が行われています。確たる裏付けは見つけられなかったものの、世界の中でもかなり多い。なお国によっては政治指導者だけでなく、文化芸術やスポーツの分野で功績を残した人も国葬になり、オーストラリアなんかでは葬式というよりライブのようなポップさで大いに盛り上がるようです。オリビア・ニュートン・ジョンも、あと台湾ではテレサ・テンも国葬されています。

いきなり話が逸れました。ベトナムでは1969年のホー・チ・ミンを皮切りに、トン・ドゥック・タン、レ・ズアン、グエン・ヴァン・リンなどベトナム各地の通り名としてベトナム在住日本人にもなじみのある名前が並びます。「救国の英雄」「赤いナポレオン」と称されるヴォー・グエン・ザップ将軍の国葬も記憶に新しいところです。せっかくなので歴代の国葬を↓に並べておきましょう。

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ヴォー・グエン・ザップ将軍の国葬(出典:Sống Đẹp
日本語表記ベトナム語表記主な肩書き国葬実施日
ホー・チ・ミンHồ Chí Minhベトナム民主共和国主席、ベトナム労働党中央委員会主席1969年9月3日~9日
グエン・ルオン・バンNguyễn Lương Bằng副国家主席1979年7月23日
トン・ドゥック・タンTôn Đức Thắng国家主席1980年3月31日~4月3日
レ・ズアンLê Duẩn書記長1986年7月11日~15日
チュオン・チンTrường Chinh書記長、国会議長1988年10月2日~6日
レ・ドゥック・トLê Đức Thọ党中央委員会委員長1990年10月16日~17日
グエン・フー・トNguyễn Hữu Thọ国家主席代行、国会議長1996年12月29日~30日
グエン・ヴァン・リンNguyễn Văn Linh書記長1998年4月29日
レ・クアン・ダオLê Quang Đạo国会議長1999年7月28日
ファム・ヴァン・ドンPhạm Văn Đồng首相2000年5月5日~6日
ヴォー・ヴァン・キエトVõ Văn Kiệt首相2008年6月14日~15日
ヴォー・チ・コンVõ Chí Công国家評議会議長(国家主席)、副首相2011年9月10日~12日
ヴォー・グエン・ザップVõ Nguyên Giáp人民軍大将、副首相、国防大臣、ベトナム人民軍最高司令官2013年10月12日~13日
ファン・ヴァン・カイPhan Văn Khải首相2018年3月20日~21日
チャン・ダイ・クアンTrần Đại Quang国家主席2018年9月26日~27日
ド・ムオイĐỗ Mười書記長、首相2018年10月6日~7日
レ・ドゥック・アインLê Đức Anh国家主席2019年5月3日~4日
レ・カ・ヒューLê Khả Phiêu書記長2020年8月14日~15日

ベトナム語版Wikipediaを転載するだけの簡単なお仕事かと思ったら、肩書きがうまく翻訳されなくて正式名称を調べたりしてたらえらい時間かかりました。。ホー・チ・ミンの国葬はYouTubeで見ることができますよ。

オフィシャルな葬儀が4種類ある

日本にも国葬・国民葬・合同葬があるように、ベトナムにも国が関係するオフィシャルな葬儀が4種類あります。2012年12月の政令により定められています。

まずは本題の国葬(Lễ Quốc tang)。ベトナムの4大トップである書記長・国家主席・首相・国会議長を務めた人が対象です。↑の表にあるように、1992年以降はなるほどみなさん上記役職に就いていますね。唯一そのいずれも務めていないのがザップ将軍。こちらは「党・国家・人民の革命的大義に多大な貢献と功績を残した」高位幹部の特例を適用したものになります。一般市民の弔問も認められ、葬儀場には長蛇の列ができるほどだったそうです。

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すごいたくさんのハノイ市民に見送られるヴォー・グエン・ザップ将軍(出典:Sống Đẹp

政令では国家予算から捻出される葬儀費用の上限も規定されています。その額なんと、8億ドン!日本円に換算すると、約480万円。…あれ、自動車1台分くらい…?安倍元首相の国葬費が16億円を超えそうとかなんとか言っているのと比べるとえらい違いです。しかも細かい費用についてもけっこう細かく定められています(費用については2013年8月の政令にて規定)。それらも含めて、次項で詳しく見ていきます。

次に国葬(Lễ tang cấp Nhà nước)。また国葬かよ!とツッコみたい気持ちはわかるのですが、どうにもうまく翻訳できまへん。ベトナム語的には国葬「級」の葬儀、みたいな感じ。こちらは政治局員や党中央委員会書記、副国家主席・副首相・国会副議長など「副」の人たちが対象です。こちらの費用上限は2.5億ドン(約150万円)。

続いてLễ tang cấp cao。「高級葬」とでも訳しましょうか。対象は政治局員や退役革命軍人のほか、社会的・文化的・科学的分野で勲章を獲得するクラスの人たちになります。費用上限は6000万ドン(約36万円)。贅沢な式にしなければ、全額国費で賄えそうな額ではあります。

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出棺するようす(出典:Sống Đẹp

最後に幹部および公務員のための葬儀(Lễ tang cán bộ, công chức, viên chức)。こちらは読んで字のごとし。葬儀費用は社会保険法に準ずるということで、特別な手当てはなさそうです。

いちばん上の国葬以外は、対象者がその職をクビになっていたり降格していたりすると、1段階下の葬儀にしなければならないとのこと。納得です。

国葬のルールが面白い

国葬のルールについてもう少し掘り下げていきます。先にも記したように8億ドン(約480万円)の葬儀費用の内訳はけっこう細かく決められています。棺の費用や自宅の祭壇は上限各5000万ドン(約30万円)、お墓の建設費用と葬儀場の祭壇費用は上限各8000万ドン(約48万円)、棺を覆う国旗の製作費1500万ドン(約9万円)。傘や観葉植物植物、カーペットのレンタル代などにも言及されています。

党書記長もしくは大統領を委員長とする国家葬儀委員会が設置され、25~30人のメンバーを中心として準備が進められます。国葬の期間は2日間。その間は公共機関や事務所などは半旗を掲げ、また娯楽の自粛が求められます。半旗は旗竿の高さの2/3までの位置で掲揚し(半分じゃないんだ)、しかし旗が地面についてしまうのはNGです。これはなかなか珍しいですが、旗がはためくのを防ぐために、黒い布で縛る必要があります。電柱などテキトーなところに掲揚したり、変色した旗を使うのもダメです。

棺を設置する部屋には2名の退役軍人が配備され、棺の周りには軍服を着た4人の将校が棺の四隅(棺から1.5mの位置)に立ちます。さらに6名の兵士が将校から70cm外に立って棺を守ります。こ、こまかい。。葬儀場の前には兵士2人、127名からなる3部隊、写真と旗を持つ将校各1名、棺を運ぶ将校1名と兵士12名、霊柩車を手配する手配する兵士7名…。墓地には27名が待機するとともに、13名が偽の墓を守ります。偽の墓。日本語に訳しても英語に訳しても偽の墓です。。

国民的喪の儀式
たしかに、ちゃんと↑のルール守ってますね

埋葬中、埋葬後の黙とうのときに流す曲も決まっています。埋葬中には「葬送行進曲」(Hành khúc tang lễ)、黙とうの際には「殉教者の魂」(Hồn tử sĩ)が流れます。聞いてると悲しい気分になってきます。

ほかにもいろいろとありますが、キリがないのでこのへんで。

おわりに

日本での騒動を見ていると、安倍元首相や国葬に対して色々な意見や思いがあるのは民主主義国家として仕方ないとは思いつつ、さすがにうんざりしてきますね。政治家も国民も、他に議論すべきことを議論してくれという感じです。

参考資料・画像引用元

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