【ビジネスマン必読】ベトナム”ビジネス”あるあるを小説『アジアの隼』から紹介するよ

work_harder ベトナム経済

現場の最前線にいる海外駐在員の仕事は刺激的で、日本国内では味わえない仕事の醍醐味を感じながらいきいきと活動できるのが魅力的です。しかし実際現地で働いてみると、比較的ハードルが低いといわれるベトナムででさえ商習慣や文化の違いに相当苦しむことになりますし、逆に距離ができてしまった本社の対応も大変になってきます。今回はそのへんの苦労、「ベトナム”ビジネス”あるある」を小説『アジアの隼』を用いて紹介していきます。

『アジアの隼』はベトナム・ハノイに駐在する銀行員が自行の駐在員事務所を開設する傍らで、ベトナムをはじめとする東南アジアの投資プロジェクトに対して融資やアドバイザリーをしていく経済小説です。時代背景はアジア通貨危機前後ということで四半世紀前の話ではあるものの、現在に通じるベトナムビジネスあるあるがてんこ盛りで共感すること間違いなしです。当時のベトナムの姿と現在のそれを比較して楽しむのもあり。

在ベトナム駐在員はもちろんのこと、ベトナムに関わる仕事をしている人はまじで必読。AmazonのKindle Unlimitedでも読めます。以下、ストーリーの根幹に関わるネタバレはないので安心してご覧ください。

『アジアの隼』黒木亮

対ベトナム人・ベトナム企業編

数ヵ月間も待たせた挙げ句に、こちらに頼むときはいつも大至急だ

さっそくメジャーなあるある。設定した締切は守られず、散々なしのつぶてを決め込んでおいて、平気で「今日の午後までに返事しろ」とか「明日の朝までな!」とかほんとキレそうです。いや実際キレてます。
何度催促をしてもスケジュールを予め共有していても効果は薄いものの、こちら(日本側)としては粘り強くリマインドを続けていくしかありません。

一説によると、彼らが中長期的な計画を立てるのが苦手なのはベトナムが有史以来ずっと戦争に巻き込まれてきたからだとか。たしかに今日明日死ぬかもしれないのに、後のことなんか考えようがないといえばない。どうせ予定は変わるのだから、そもそもきっちりスケジュールを立てる意味がない。終始そんな調子じゃそりゃ社会主義の計画経済がうまくいくはずないわな…。

中々出てこない資料にいらいらしたり、「長債銀とのアドバイザリー契約のことなど知らされていない」という担当者にアドバイザリー契約について一から説明したり

ベトナム企業はタテにもヨコにも基本とても風通しが悪いです。組織が縦割りで部署間の共有はしないし、会社のトップと合意したことすら担当者に持っていくと「聞いてない」といって対応してくれないことホントによくあります。いちいち自分で相手のいろんな部署やいろんな役職の奴に最初から説明するのはしんどいですが、結局そのほうが速かったりします。。
依頼した資料ひとつ出してもらうのも、いちいちお役所仕事でオフィシャルなものを待っていると永遠に出てこない感があります。公式なものにこだわらずに先方社内で未合意のものでもとにかく何かしらもらっておくのが吉です。

(この阿呆!)真理戸の頭にかっと血がのぼる。(なんでそんな大事なことを事前にいわないんだ!? 俺がたまたま電話しなかったらどうするつもりだったんだ!?)

基本ベトナム人はいわゆるホウレンソウをしません。というか逆にちゃんとやるのは世界でも日本人くらいだそうです。そのため例えば役所の手続き関連でキーとなるポイントが直前になって初めて聞かされるみたいなことがよくあります。
しつこいくらいに何度も何度も確認をしていくしかないですが、それでも防ぎきれないので常に心の準備をしておくということでしょうかね。

一旦合意してもそれは相手を釣るための餌で、いつでもあっさりと前言を翻す

交渉ごとというのは大枠から両者の食い違いを潰していき、その合意をもとに残りの項目を決定していって、既に合意した点には立ち返らないものです。そうしないといつまで経っても話がまとまらない。
しかしベトナム人はすごいですよ。すべての前提となる合意事項すらあとから翻してしまいます。「状況が変わった」「よく考えたらこっちの方がいい」「トップがこう言っている」…契約にサインとハンコが押されるまで、何が起こってもおかしくないと覚悟しましょう。数か月、あるいは年単位に及ぶ交渉は特に要注意です。「お前記憶喪失なんか」と耳を疑う発言を何度聞いたことか…。それでいて「スケジュールは厳守です」とか、どの口が言えるのよ。。交渉事は予想の倍・3倍余裕でかかります。

「今週の頭に第一回の代金支払いをしたら途端に仕事のペースが遅くなりました」

わかりやすく現金な人たちです。上記は日本側が約束通り代金を払ったのにベトナム側約束通り仕事をしてくれない、というパターンです。「今は忙しい」じゃねんだよ、こっちはカネ払ってるのよ。忙しいのはお互いさまなのよ。「今忙しい」が遅れる正当な理由として認められると本気で考えてるのが恐ろしい。
一方ベトナム企業はベトナム企業でメチャクチャ金払いが悪いです。いかに約束通りカネを払わないかを突き詰めることがあたかも正義かのように思っている節すらあります。僕も仕事をお願いしている日系企業から「おたくのベトナム側パートナーが全然カネ払ってくれない」と泣きつかれ、両者お互い感情的になって取引解除になるところを間一髪仲裁したことがあります。

総論オーケー各論反対

トップから了解がとれてよかったよかった、と思いきや担当者は動かない。聞くと「実務的にはこういう問題があってムリ」と結局合意がとれていないことになっている。じゃあ何のためのトップ会談だったの?ということがよくあります。
政策もまったく同じ構造で、首相や大臣は「早急に改善を指示」しますが具体的なことは何も進まず。先日投資許認可に関する「首相指示」が出たばかりですが、果たして事態が改善に向かうかは不透明…というか向かわない寄りに透明かも。。
本書のなかにも象徴的な場面が描写されているので以下に引用します。

外国企業の相次ぐ撤退に危機感を抱いたベトナム政府はホーチミン市でファン・バン・カイ首相と外国企業の代表者約八百人との直接対話集会を開いた。コカ・コーラ、富士通、オーストラリア大使館などからの出席者が、口々に、ベトナム政府が発表した政策に沿って投資を実行しようとすると政策無視の腐敗した行政機構が立ちはだかること、不完全な法制度、恣意的な徴税システム、高い輸入税、ベトナム側パートナーの契約無視の態度などについて不満を表明した。これらに対して首相は「皆さんの問題はわれわれの問題でもあります。今後、ハノイとホーチミンに外国投資ホットラインを設置します。何か問題があれば、すぐそこに電話して下さい。すべての問題は私と首相府に直接報告されるようにします」と請け負った。しかしその後しばらくの間、そのホットラインがどこにあるのか、その電話番号が何番なのか、誰にもわからなかった。ようやく一ヵ月ほどしてホットラインの番号が判明したが英語で応対できる人間は誰もいなかった。相変わらずのベトナム流であった。

対日本(本社)編

東京の本店からは「いつになったら認可が下りるんだ」と連日の催促。今朝も国際企画部長と言い合いになった。「日本とベトナムでは物事の進むスピードが根本的に違うんですよ」「じゃあ、君の給料もベトナム人並みにしようか」「私はやれることは全部やっています!そんなにおっしゃるなら部長が代わりにやったらいいじゃないですか。私はいつでも喜んで帰りますよ」 「せっかくベトナム人のコンサルタントを二人も雇っているんだろう?彼女らをもうちょっとうまく使ってなんとかできんのかね?」 「あのおばはんたちのどこがコンサルタントなんですか!? 状況報告すらまともにできないんじゃ話になりませんよ。しかも二言目には『ディス・イズ・ベトナーム』だ。誰があんな馬鹿どもを雇ったんですか?おかげでこっちは大迷惑ですよ」

巷でよく言われる「DOY(だったら お前が やってみろ)」ですね。認可モノは昔から訳わからず遅れたりして本社の疑心暗鬼を誘いますが、最近は輪をかけてひどいですね。周りの駐在員のみなさんも本社への説明に苦労されているようです。
最初は月イチの報告だったのが、遅れてくると週イチ、3日ごと、毎日と徐々に報告義務が増えていきます。一方で、一日じゃ事態もそう変わるわけでもなく、次第に報告する内容も微細になっていきます。「今日●●局の担当から副局長に書類が上がった」「副局長が局長に上げた」「確かに書類は今、局長の机の上にある」「局長から××の部分に手直しの指示が入ってまた担当まで降りてきた」「担当は修正を終えたが副局長は今日出張でいないらしい」「●●局はようやくOKらしいが、今度は△△局から横槍が入った」認可が下りるまで永遠に続く役所ストーキング。勘弁してくれ…。

「いやもう、国際審査部が『ベトナムとはどういう国なんだ?対外債務はどれくらいあるんだ?』というそもそも論からやってますからね」

いや、散々社内で議論して、ついこないだベトナムやるって決めましたよね?その上でわざわざ現地に駐在員送ってるわけですよね?あのときの議論なんだったんすか?結果は大して変わりばえしないのにまたイチから調べ直しですか?社外にまたヒアリングって、何度も同じこと聞かれてさすがにもううんざりされてますよ。。
僕もコレ、前職のときに何回も喰らいました。社内の合意形成は都度記録をとっておきましょう。

アテンド編

「この人たちは、もともと時間の感覚とかグループの統制とかいう発想はまったくないんです。人間だと思って引率しちゃ駄目ですよ。羊の群れだと思って追い立てて行かないと」

まさに先日ベトナムの事業パートナーを日本へアテンドしたときがコレでした。遅れて来る奴、二日酔いでバスの中で吐く奴、二日酔いで結局来ない奴、時間通り来ないから置いて行ったらタクシー代を出せと怒り出す奴、逆に勝手にものすごく早く来て既に待ちくたびれてる奴、いつの間にか行方不明の奴、コレ見たいアレ行きたいとダダこねる奴、もう行くぞと言ってるのに自分が最もカッコよく写る角度を追求して似たようなポーズを繰り返す奴…まさに羊飼いのつもりでどんどん強引に進めていかないと時間がいくらあっても足りません。
充分に余裕をもった計画と、あとは団体ツアーのご飯はビュッフェ形式が最強だということを学びましたね。待ち時間ゼロで、みんな勝手に好きなものを選んでいくので超ラクでした。せっかくだから日本でしか食べられないようなおいしいものを?20何人もぞろぞろ引き連れて、スケジュールぱんぱんでそんなとこ行けるかっ!おいっ、しばらくトイレ行く時間ないからバス乗る前に済ませておけよ!おい順番に行けーっ‼︎

ふざけるな!お前にはスケジュールを逐一報告してあったじゃないか。今の今になって、どうやって記者会見なんか開くんだよ!?

本社のエラい人がベトナムに来て、いきなり思いつきでとんでもないことを言い出しちゃった場面ですね。腰巾着の部長さんには事前に散々報告していたのに、見事に梯子を外された形です。
ベトナム人のちゃぶ台返しにはうんざりしながらもそれなりに慣れてきたところに、日本人からこれをされると怒りもまたひとしお。
個人的にここまでひどい経験はありませんが、アテンドが全て計画通りにいくことはむしろ稀です。そのへんのところは以前別の記事で書いたのでそちらをご覧ください!

おわりに

ベトナムと本社の板挟み状態に常に置かれる駐在員。その苦労は生半可なものではない一方、それをなんとかするのが駐在員の腕の見せどころ。この苦悩がなければ逆に自分の存在価値はないのだから、今日もなんとかこらえて頑張ろう………なんて思えるかボケェ!どいつもこいつも好き勝手言いやがって!
という葛藤を日々胸に抱きつつ、たまにはそれが実際に口から出つつ、気づけばそろそろベトナム駐在歴延べ丸7年です。

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