先日ご紹介したように、ベトナムのガソリン価格は世界経済再開の本格化とウクライナ情勢を受けて過去最高を記録しています(昨日ちょびっと下がりましたが)。そういえばベトナムって油田あったよな、でも製油所は長らくなかったんだっけ、自給率とかそのへんどうなってるんだっけと気になったので調べてみました。石油に関してはまったくの素人である僕ですが、ふつふつと石油のように湧き上がる自らの疑問に対し、素人なりに調べて僕と同じような素人さんにでもわかるようにまとめてみました。文脈によっては天然ガスも各統計数字に含まれていたりしますが、そういう細かいところははしょってます。
そもそもガソリンなどの石油製品はどうやって作られる?
僕自身なんとなくしかわかっていなかったのと、ここに触れておかないとここから先の話がしにくくなるので簡単に説明しておきますね。石油は、まず「油田」から原油として採掘され、「製油所」に送られます。製油所で原油は精製され、ガソリン・灯油・軽油などの石油製品へと分離されます。原油をめっちゃ加熱したあとでそれを冷やすと、融点の違いによって違う成分が抽出されるという仕組みのようです。↓の動画を観ると1分でわかります。
ベトナムは産油国、でも生産量は減少傾向
まず、ベトナムは石油が出ます。2020年現在、年間の生産量は約1千万トンで世界35位の規模です。我々が普段いわゆる産油国として認識している国が1億トン以上(例えば世界一のアメリカが7億トン、ロシアとサウジアラビアが5億トン)なので、その10分の1くらいのサイズ感ですね。一方の消費量は約2.2千万トンと、生産量の倍以上消費しており自給率は48%ということになります。残りは当然輸入に頼っていて、同じ2020年には約830万トンの石油を輸入しています。生産量+輸入量で消費量賄えてないけど、ソースが違うので誤差ということで。そして最大の輸入先はなんと韓国で、全体の30%以上を韓国から輸入しています。韓国は国内需要に比べて製油所の規模が大きいんだそうな。
ちなみに日本の石油自給率は0.3%!輸入の8割以上を中東に頼っています。…あれ、ゼロじゃないってことは日本でも石油出るんだ。。新潟をはじめとして秋田、山形、北海道で生産しているそうです。知らんかった。
そんなベトナムの石油生産量は実は減少傾向にあります。国内の主要な油田が採掘を開始してから15年以上経過しているためで、生産が進むと地層の圧力が低下して生産量がどうしても低下してしまうそうです。産油量は2004年をピークに減少しはじめ、2010年前後には石油の純輸入国になったといわれています。また、新規の油田の探査もなかなか進んでおらず、この減少傾向は続くと見られています。
ベトナムには石油や天然ガスの取れる堆積盆地と呼ばれるエリアが周囲にたくさんあり、石油の埋蔵量はASEANトップ。その割に生産量では同4位と遅れをとっており、開発生産が進んでいないと指摘されています。
ベトナムの石油生産の歴史をちょろっとだけ
ベトナムの石油開発の歴史は比較的浅く、1975年2月に当時のアメリカ・モービル社がバクホー油田(Mỏ Bạch Hổ/白虎油田)を発見したのが始まりとされています。1万ドン紙幣にも描かれているアイツです。しかし同年4月30日にサイゴンが陥落、モービルに権益を付与していた南ベトナム政府が崩壊したことで同社はわずか2か月で権益を喪失。モービルかわいそうすぎでしょ…。その後国営会社ペトロベトナムとソ連の石油会社との合弁会社により1986年から生産が開始されています。以降ベトナムを代表する油田として活躍を続けていましたが、2001年の生産量日量26.7万バレルをピークに減退を続け、2020年現在は日量2万バレル前後まで落ち込んでいます。そして2020年代中頃には生産が終了すると見られています。
その後各地で油田の開発が続けられるなか、石油製品を作り出す製油所はバクホー油田の生産開始と同時に計画が始まるも、そこから30年近く経っても開発には至らず。ベトナムは石油がとれる国でありながら、製油所がないため割安な原油を輸出し、ガソリンなど割高な石油製品を輸入するという状態がかなり長い間続いたということです。石油はほとんどとれないけど、1975年を「最後に」製油所を建設していない日本とは対照的です。
ようやく国内初のズンクアット製油所(Nhà máy lọc dầu Dung Quất)が完成したのが2009年。この製油所の稼働により、国内需要の約4割を賄えるようになりました。計画策定が1997年、着工までに7年とずいぶん時間がかかっています(別に驚きませんが)。
そして2018年、待望であった国内第2の製油所であるニソン製油所(Nhà máy lọc dầu Nghi Sơn)が誕生します。日本とベトナムが協力して事業化した一大プロジェクトで、事業総額は90億ドル(約1兆円)。出光興産とクウェート国際石油が35.1%ずつ、そのほか三井化学が4.7%を出資しています。日本勢が日本国外で主体的に運営する唯一の製油所でもあり、国内需要減退からの脱却を目指す出光としても社運を賭けた投資でした。ズンクアット製油所に加えニソン製油所が稼働を始めたことによって、ベトナム国内の供給量の75%を担うまでになりました。ちなみに、バクホー油田など国内の原油を処理するズンクアット製油所に対し、ニソン製油所は共同出資元であるクウェートからの原油を使用しています。
しかし、この日本勢も大きく関わっているニソン製油所が今たいへんなことになっています。
財政難で昨今の原油高の好機を生かせない!
ズンクアット製油所と同様、建設計画は遅延に遅延を重ねます。事業計画を発表した2008年当時は2013年の操業開始を目指していたのが、その後投資決定を3度延期。プロジェクトの遅れが財政を圧迫したことに加え、いざ稼働を開始してみたら世界の原油市況が低迷。石油製品をつくればつくるほど赤字を膨らませることになり、累計損失額は33億ドルに。出光も既に900億円を超える特損を計上しています。ついには運転資金すらままならなくなり、原料である原油の調達を削るしか事業を維持できないという悪循環を招いています。ここへきて記録的な原油高の好機が来ており、今なら以前に契約した割安な原油を使って高い収益を得られるというのに手元にカネがなくてつくれない、という何とも残念な状況に陥ってしまっています。今年2月は50%の減産を余儀なくされ、3月に入ってからは20%の減産に留まっているものの、つい先週この状況にさらに追い打ちをかける報道が飛び込んできました。
ベトナム商工省は3月15日、国内の石油製品供給計画においてニソン製油所を除外した案の策定を進めると発表。主要顧客に対する4月以降の製品供給契約がまだ結ばれておらず、生産そのものが停止になる可能性が浮上しています。1兆円かけて建設して、4000億円赤字を垂れ流した末に生産停止て…。それと前後してベトナム政府は石油元売り各社に対し石油製品の輸入枠の引き上げを指示。出光との製油所開発権の獲得合戦に敗れたENEOSが日本からガソリンを供給し、ニソン製油所の減産の穴埋めをするというなんとも皮肉な状況になってしまっています。
(2022/5/10追記。先日、同製油所が4~6月の供給計画を出し、それをペトロベトナムが承認したことでどうにか生産停止は免れているようです。VIETJO)
そんななか、3月16日には国内需要を満たすため国内3か所目の製油所建設が明らかにされました。所定の投資手続きが今年10月までに完了する見通しとのことですが、これまでの例を見るにそうスムーズにはいかないでしょうね…。
おわりに
現在世界的に大きな影響を及ぼしている石油情勢。ベトナムの事情を紐解いてみたら、過去から現在に至るまで想像以上の混乱が発生していたことがわかりました。そしてそれに大きく関わる日本企業の苦境も…。
まだまだバイクが市民の足を担っているベトナム。昨日若干の下落をみたものの、今後もしばらくガソリン価格の高騰は市民の家計を圧迫しそうです。ところでバイクの燃費は…ベトナム人にも大人気のホンダWAVEでリッター60km!! そんな走るんか!やっぱりホンダさんさすがです。
ホンダのかつての苦悩はこちら↓
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