書いている本人もこんなに長くなるとは思っていなかったベトナムのお札シリーズ。これまで3回にわたって統一ベトナム、南ベトナム、北ベトナムそれぞれの紙幣発行の歴史を振り返ってきましたが、最後はフランス植民地時代のお札をご紹介したいと思います。
ベトナムは19世紀終盤から20世紀半ばにかけてカンボジア、ラオスとともにフランスに支配され、フランス領インドシナ(略して仏印、Đông Dương thuộc Pháp/東洋屬法)を形成していました。そこで流通していた通貨がフランス領インドシナ・ピアストル(略して仏印ピアストル、Piastre indochinoise)。「ピアストル」は、もともとフランスで「米ドル」を指す言葉です。
各国違ったパターンがオシャレ 1953年
仏印ピアストルのなかでもっとも特徴的なデザインといえるのがこの最後に発行された1953年バージョン。カンボジア、ラオス、ベトナムとも同じ絵柄をベースとしながら、中に描かれる肖像や建物、風景が各国異なった仕上がりとなっているのがなんともステキです。またピアストルの表記とともに、各国に導入された通貨(ラオス・キープ、カンボジア・リエル、南ベトナム・ドン)がすべて併記されるというトリッキーな運用となっています。
こちらが1ピアストル札で、各国の元首が中心に描かれています。カンボジアはノロドム・シハヌーク国王、ラオスがシーサワーンウォン国王、ベトナムがバオ・ダイ(Bảo Đại/保大)ベトナム国国長。
刷新された1ピアストル札。順に王室の浮家、ワット・シエントーン、獅子像。
10ピアストル札。カンボジアの踊り子、ラオスの女性、ハロン湾のローソク岩(?)。ハロン湾の岩といえば近年はもっぱら、20万ドン札にも印刷されている香炉岩でこのローソク岩については情報が出てきません。
5ピアストル札。7つ頭のナーガ、タート・ルアン、バオ・ダイ国長。
100ピアストル札。アンコールワット、花を運ぶ少女、バオ・ダイ国長。
200ピアストル札。バイヨンの観世音菩薩、バオ・ダイ国長。
…南ベトナムさん、思考停止してません??
ピアストル版乱発期 1932~1951年
これまで紹介してきた南北ベトナム&統一ベトナムさん同様に、この時期仏領インドシナさんもだいぶピアストルを乱発しています。インドシナ総合政府が紙幣を発行した時期が若干あるものの、基本的に発行体はインドシナ銀行のみ。ベトナム国内だけでなく英国や日本でも印刷されており、デザインは各自に任されていたのでしょうか。。
(ちなみにインドシナ銀行(Ngân hàng Đông Dương tức/Banque del’Indochine)は1875年にパリで設立され、サイゴンに支店が置かれました。その後ハイフォンとハノイにも支店が置かれ、そのいずれもが今日のベトナム国家銀行の建物として受け継がれています。日本にも1936年に横浜に駐在員事務所置いています。その後インドスエズ銀行を経て、現在はクレディ・アグリコルとして総合金融サービスを展開しています。)
↑このラインナップがおそらくメイン。なかでもこの時期の1ピアストル札は現在のベトナム国内でもいまだにちょくちょく見かける主流なタイプです。
その他どばー!デザインが、タッチが、それぞれ全然違う!どうなっとんねん。
植民地時代通してベトナムに首都があった(サイゴン→ハノイ→サイゴン)ように、お札のデザインからもベトナムのわずかな序列の高さがそれとなく見てとれます。オモテ面をベトナム、ウラ面をカンボジアorラオス(カンボジア多め)関係の描写というパターン多し。
なお同じフランス領であるニューカレドニアや、ポリネシアの一部であるタヒチ島では、なんと仏印ピアストル紙幣がそのまま転用されていました。タヒチのお札に三角帽子(ノンラー)かぶった女の人!雑すぎぃ!
約半世紀ぶりの刷新 1920~1939年
1876年にピアストルが発行されて以来、マイナーチェンジはあったものの約半世紀経って初の大幅リニューアル。これまでフランス語&中国語表記のみだったものが、支配下の3言語も追加。
これまでベトナム語の呼称はもっぱらドン(đồng/銅)でしたが、ここでは「銀」を意味するバク(bạc/鉑)が出てきます。ちなみにこの5ピアストル札が、前項で言及したようにニューカレドニアで20フラン札として転用されていました。
ピアストルの補助単位はサンチーム (centièmes)。100サンチームで1ピアストルです。サンチーム札にはフランス語しか載ってない。。サンチームの5分の1の補助単位であるサペック(sapèques)は、紙幣には出てきません。
ベトナム初の紙幣発行? 1876~1907年
1876年に初の仏印ピアストル紙幣が発行される前は、ベトナムには銅線や銀貨が流通していたようですが、紙幣は発行されていなかった可能性があります。…ということで、ベトナムの紙幣を巡る旅はこれにて終了!
おわりに
わずか150年弱の間に、同じ地域でこんなにいろんな通貨のいろんな紙幣が発行されているとは衝撃でした。お札の変遷ひとつとっても、その背景にはその時その時の事情が。
日本も20年ぶりの紙幣刷新まであと少し。これからお札の未来はどうなっていくんでしょうかね。中国がお賽銭までキャッシュレスになっているように、今後はお金=お札の概念すら徐々に廃れていくのかもしれません。世界全体がどんどん豊かになって、お金に左右されない時代は我々の生きている間にやってくるでしょうか?
あ~お金貯まんないかな。
参考資料・画像引用元
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コメント
お世話になります。
ベトナムの紙幣が年代ごとに大変分かりやすく分類されており、紙幣収集しているものとして大変助かっております。
私も実は90年代後半にベトナムに駐在しており、その時はまだ発展の最中という感じでしたが、最近の発展には目を見張るものがありますね。
貨幣収集と絡めてベトナムの歴史をこのサイトで勉強させていただこうと思います。
※硬貨も紙幣ほどでないですが、なかなか複雑ですよ。
以上
大澤
コメントありがとうございます!マニアックな記事をご覧いただき喜びひとしおです。
90年代後半、アジア通貨危機までは非常に盛り上がっていたようですね。まさに小説「アジアの隼」の光景でしょうか?
ここのところ本業(こちらは副業ですらないですが)に忙殺されまったく更新できていませんが、いただいたコメントを励みにどこかで気合い入れて再開いたします。
硬貨も面白そうですね!調べて「なかなか複雑なんですよ〜」とドヤってみたいです。