ベトナムでいちばん多い名字、グエンさんのルーツを極限まで辿る

nguyen ベトナムの歴史

ベトナムあるあるの筆頭、「どこもかしこもグエンさん」。実に全国民の約4割がグエンさんで、世界でも4番目に多い名字だそうです。そのルーツは王朝の阮朝(グエン朝)にあり、その関係者のほかにも人々が迫害を恐れて前王朝の名前から改名したり、なかには強制的に改名させられたという話も。

一般的に語られているグエンさんのルーツはここまでですが、「最初のグエンさん」は調べてもなかなか出てきません。今回、ベトナム語などの記述を頼りにできるところまで遡ってみたところ、そこには予想以上に長い道のりが…。

ということで、まずはちまたの噂通り、ルーツと思われる阮朝の始祖から辿っていくことにします。

阮朝の初代皇帝、グエン・フック・アイン(嘉隆帝)

Nguyễn Phúc Ánh/阮福暎、1762~1820

滅亡した広南阮氏唯一の生き残り。当時12歳だったこの人が殺されていたら、後の阮朝成立とそれに伴う一大グエンさん勢力はなりませんでした。ベトナムに関わる仕事をした人でもなかなか日本人にはなじみのないグエン・フック・アインですが、壮絶なドラマに思わず「へえ~」となるはず。↓リンクからどうぞ

ナベアツこと桂三度っぽい グエン・フック・アインさん

広南阮氏の開祖、グエン・キム

Nguyễn Kim/ 阮淦、1468~1545

黎朝の旧臣で、広南阮氏の開祖。グエン・フック・アインのちょうど10代前にあたります。黎朝を打倒して莫朝(マク朝)を開いたマク・ダン・ズン(Mạc Đăng Dung/莫登庸)に対して反莫運動を展開するものの、逆にマク・ダン・ズンの策略で毒殺されてしまいます。しかし毒殺されたとはいえ、この時代の人としてはめっちゃ長生きじゃない?

ちなみに家電量販店大手のグエンキム(Nguyễn Kim)は、創業者のグエン・ヴァン・キム(Nguyễn Văn Kim)さんの名前から取られたもので、このグエン・キムさんとはたぶん無関係。

日本でいうところのヤマダ電機的ポジション、グエンキム

ベトナム初の宰相、グエン・バク

Nguyễn Bặc/阮匐、924~979

このあたりから日本語の資料がほとんど見当たらなくなります。グエン・キムの15代前にあたるようです。ベトナム史上初めて実質的な国家統一を果たしたディン・ボ・リン(Đinh Bộ Lĩnh/丁部領)とともに丁朝(ディ朝)の創建に大きく貢献し、ベトナム初の宰相となった人物。

阮朝グエンさんのルーツ、グエン・トゥック

Nguyễn Thước/阮尺?、892または903~?

ここへきて、「ベトナムのグエン姓(Họ Nguyễn Việt Nam)」というウェブサイトに行き着く。さらに調べていくと、グエン・バクの父で「両親は不明、系譜の開祖にあたる」!! 呉朝(ゴ朝)を建国したゴ・クエン(Ngô Quyền/呉権)の岳父、ズオン・ディン・ゲ(Dương Đình Nghệ/楊廷芸)とそののちゴー・クエンにも仕えた人物とあります。

ついにグエンさんのルーツを突き止めたか?と思いつつ、意外と歴史としては浅いな…と思った矢先、上記ウェブに気になる記述を発見。

1232年、李朝(リ朝)を乗っ取ったチャン・トゥ・ド(Trần Thủ Độ/陳守度)は李氏の子孫にグエン姓への改名を強制させた。胡朝(ホ朝)が滅亡した際も、胡氏の子孫は復讐を恐れてグエン姓に改名した。1592年、莫朝滅亡の際にも莫氏はグエン姓に…。

グエン姓への一大ムーブメントは阮朝以後だけではなかった…!

そういえば広南阮氏を滅ぼしたグエン・フエの西山阮氏も阮朝とは関係ないグエン姓だし、グエン・チャイも阮朝より昔の人だし…阮朝のルーツ=グエンさんのルーツではないのかも?ということで、別のルートを探してみることに。

グエンさんのルーツは4世紀に中国から

ヒントは英語版Wikipediaの「Nguyen」のページにありました。なんという灯台下暗し…普段から英語で仕事をしているというのに、ひたすら英語を避けたバチが当たりましたね。。

曰く、317年にグエン・フー(Nguyễn Phu/阮敷)という晋(東晋)の役人が交州に渡ったのが最初だそう。交州というのは、現在の中国・広西チワン族自治区の一部とベトナム北部(フエくらいまで)に置かれた区域。

1335年に出版されたベトナム最初期の歴史書「安南志略」の著者として知らせるレ・タック(Lê Tắc/黎崱)が、自身のルーツをグエン・フーにあるとしています。ちなみに彼は、母方のレ姓を称したようです。余談ながら、グエンフエ通りで知られる将軍グエン・フエも本姓はホー(胡)ですが、こちらは母方のグエン姓を名乗っています。

中国でのルーツは紀元前10世紀以前!

さらに遡ると、紀元前17~10世紀の殷(いん)の時代には、涇川という区域(現在の中国・甘粛省平涼市)に阮と呼ばれる地域があったそうです。殷が周(しゅう)に取って代わられると、この地域の人々はその名を惜しんで阮姓を名乗ったということです。その後、襲撃を恐れた阮姓の人々は全国各地へと散らばっていき、その一部が香港や台湾、そしてベトナムへと行き着いたものと思われます。

まとめ

ということで、ピュアにベトナム内のルーツは4世紀、大元まで辿ると紀元前10世紀以前の中国にまで遡ることがわかりました。

まあなんとなくグエンさんのルーツは中国にあるとは思っていたものの、まさかそっくりそのまま中国三千年の歴史を辿ることになるとは想像もしていませんでした。

名字とは別に、民族的なルーツも辿ってみたらまた違う発見があるかもしれませんね!

参考資料

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