歴史的建築物を救え!失われるホーチミンのフランス様式ヴィラと保存の動き

ベトナムの歴史

みなさんご存じのように、ベトナムは長らくフランスの植民地支配を受け、フランス様式の建築物が数多く建てられてきました。中心部にある公共建築は、役場・裁判所・図書館など当時の機能とともに今もなお現役として活躍しているものも多くみられます。(そのあたりの事情については↓の記事をご覧ください!)

一方で、個人の邸宅として建てられたフランス様式の戸建て(以下「フレンチ・ヴィラ」と呼びます)たちは、適切な保存がなされずにどんどんとその姿を消しつつあります。今回はホーチミン市におけるフレンチ・ヴィラの保存に向けた動きとその難しさ、最新の動向について見ていきたいと思います。

最も強い規制がかかったグループ1(後述)のヴィラ@48 Nguyễn Đình Chiểu

フレンチ・ヴィラ保存の現状

ホーチミンではフランスによる統治の時代からベトナム戦争が終結する1975年までの間に1,300軒ものフレンチ・ヴィラが生まれたものの、今日までにそのうちの600軒が既に失われています。ホーチミン市人民委員会は200軒超のヴィラを市の管理下に置き、その保全を推し進めようとしていますが、どうしても民間所有のそれらはオーナーとの折り合いが難しく、思うように進められていないのが実情のようです。

というのも、いちどヴィラが市によって保存対象に登録されてしまうと、個人の所有にもかかわらずその改築や改修について、いちいち市の許可が必要になってくるからです。1876年に建てられた3区のタンディン教会(Nhà thờ Tân Định)も修復が必要な箇所があるものの、当局との調整がつかずに改修できないままでいるとのこと。

3区のタンディン教会

倒壊の恐れがなければ解体はできず、より規制の強いグループ(グループ1&2)に分類されてしまうと階数や高さのほか、外観も維持しなくてはならなくなります。確かに、何を申請するにしても待てど暮らせど承認が下りず、やっと呼び出されたと思ったら山のように追加の書類を求められる…ベトナムで仕事をしたことのある人なら一度は経験したことのある、できるだけ経験したくない地獄のようなアレに振り回されることになるかと思うと、気持ちはよ~~くわかります。そんなガチガチの規制がかかった不動産を、誰が買いたいと思うでしょう。。不動産の流動性という観点からもなかなか難しい問題です。

難航するヴィラの保存と維持管理

237 Nơ Trang Long, Quận Bình Thạnh(一部解体前の美しいお姿)

すこしケーススタディを見てみましょう。こちらはビンタイン区(237 Nơ Trang Long)にある築約100年、敷地面積400㎡超の立派なフレンチ・ヴィラです。建てられたのは1920年とも1923年とも言われ、1975年まではサイゴン政府の一員の邸宅として使用されていました。1990年に個人の手に渡るも適切な維持管理がされないまま、2015年に現オーナーが350億ドン(現在のレートで約1億7500万円)で購入します。

なんとも中途半端な形のまま解体が中断され、廃墟化が進む237 Nơ Trang Long

オーナーは購入後、区に対しヴィラの解体許可を申請。区は市に許可申請を行うも、市傘下の建築計画局によって横やりが入ります。曰く、彼らがヴィラの調査を終えるまで許可は出せないと。その後10か月が経過するも許可が下りることはなく、業を煮やしたオーナーは独断で建物の解体に着手。直後に当局により工事は制止され、以降ヴィラは手を加えられることなく退廃が進んでいきました。

そして解体中断から2年が過ぎた2018年、市はようやくヴィラを保全対象ではないグループ3に分類することに同意。ヴィラの解体は再開され、かき集められた廃材のレンガは2万5000円で売りさばかれたそうです。…なんともベトナムらしいオチがつきました。

解体直前の姿。一気に遺跡感が出てます

以上とてもさらっと書いているので伝わりにくいかもしれませんが、このベトナム特有のモヤモヤ、やきもき、イライラ感がいかにも凝縮されたエピソードです。

また、1区の12 Lý Tự Trọngにあったヴィラは許可申請の時点ですでに壁2枚と玄関扉しか残されていなかったため、「(事実上)消失し、無価値である」として↑の237 Nơ Trang Longがまだ揉めている間の2016年に建て替えの許可が下りています。土地はそれに先立って2000億ドン(約10億円)で現オーナーに渡っており、今では17階建て・125室の4つ星ホテルが稼働を開始しています。

壁と扉だけ残され建物として「無価値」と判定された12 Lý Tự Trọng。サイゴンスカイガーデンのすぐ裏

最も有名なヴィラの再生は保全運動の起爆剤となるか?!

そんななか、ホーチミンで最も有名とされるフレンチ・ヴィラがまさに今生まれ変わろうとしています。3区の110-112 Võ Văn Tầnに建つ、通称フーンナム・マンション(Biệt thự Phương Nam)。2,800㎡の敷地を有する、市内でも最大規模のフレンチ・ヴィラです。

1920年前後にベトナム人の大富豪によって建設後、フランス空軍やフランス・バスケットボール連盟(なんじゃそりゃ)、後にベトナム共産党書記長となりドイモイ政策を推し進めたグエン・ヴァン・リン(Nguyễn Văn Linh/阮文霊)などが入居していました。その後旧オーナーが半世紀もの間ふたりで住んでいたものの、片方は亡くなりもう片方も高齢になったため売りに出され、2015年に3500万ドル(約38.5億円)で現オーナーが取得しています。取得価格に対して、専門家はその好立地を認めながらも「この投資を回収するにはオフィスビルを建てるしかない(※建てられないのを知っていながら)」と皮肉の利いたコメントを出しています。

新オーナーのもと改修工事が進むフーンナム・マンション

グループ1という厳しい制約のなか、現オーナーはさらに2000万ドル(約22億円)をかけてヴィラを大きく改装。2022年中には”Villa le Voile”という名で、3つの異なったレストランがオープンすると発表されました。60億円のレストランて…!どうなの?! 知らんけどレストランってそんな高いの?! 投資回収するのにフォー(1杯2,000円くらいしそう)何杯売らなあかんの?! ↑の専門家の言うように、採算度外視の金持ちの道楽なの?

2022年2月現在の現地風景

そんな勝手な心配をよそに、準備は着々と進んでいる模様。オーナーの収益性は置いといて、完成したらぜひお邪魔して2,000円のフォー(知らんけど)を食べてみたい!少なくとも、オープンの際には大きな話題となることは確実で、これを機にフレンチ・ヴィラ保存の潮目が変わる…かもしれません。

おわりに

このように、およそ採算を無視した例外でない限り、急速に発展するホーチミンにおいてある意味土地を低度利用のまま置いておくというというのは、市場経済が許さないようです。この流れを止めるのは非常に難しく、別の場所に移設するなど現実的な施策を考えていかないとこの先も減る一方なのでしょうね…。とはいえ見方を変えればそもそもが支配されていた時代の負の遺産なわけでもあり、新しく開発される物件も周りとの調和とか言われてフレンチスタイルを強要されているケースもあるわけで、実はけっこう奥深いテーマだったりするのかな…という感じで今回は終わりたいと思います。

(追記:ホーチミンではないですが、古都フエで解体予定だったフレンチヴィラの移設が先日決まりました!Vietnam News

参考資料・画像引用元

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