【完結編】天馬事件の顛末を第三者委員会の調査報告書から読み込んでみたよ

bac ninh city ベトナム経済

まる1週間、東京とホーチミンから入れ替わり立ちかわり最大時10名の出張者のフルアテンドを終えやっとひと息。週末はまた第三者委員会の調査報告書に戻りますよ。…と思ったらアテンドで溜まりに溜まった業務の処理であっという間にさらに1週間経ってしまった。。

ということで前回、天馬ベトナムの贈賄事件について取り上げたところ、かなりの訪問をいただきました。分量の関係で消化不良で終わっちゃった感もあるので、今回はダイジェスト版にはなりますが最後まで事の顛末を追っていきたいと思います。前回の記事をご覧になってない方はそちらを先にどうぞ。

コンサル契約の締結と解消

2019年、税務調査の追徴課税を減額してもらうべく税務調査リーダーに約1500万円の現金を手渡した天馬ベトナム (以下、現法)。その経費処理について、現法サイドは2017年の現金交付の際と同じように消耗品費とすることを本社に提案していました。

一方、本社側で何の対応もしていないことを問題と捉えた本社社長らは、顧問弁護士に対応策を相談します。顧問弁護士の助言を受け、彼らは現金を返してもらった上で新たにコンサル契約を締結し、コンサル費用として支払いをすれば違法行為を適法化できるという認識を持ち、現法に対しコンサル契約締結の検討を進めさせます。それを受けて現法側は本社に相談のうえ税務局員から紹介のあったコンサルティング会社に依頼することとし、約2000万円のコンサル契約を結ぶ稟議を起案・提出。2000万円をコンサル会社に支払い、1500万円は現金で返してもらうというスキームです。手数料相当額500万円分が上乗せさせれています。。

稟議書の内容は、このコンサル会社の交渉によって追徴額が大幅に減額されたという内容。実際にはコンサル会社は税務局との交渉など一切行っておらず、「客観的事実に反する虚偽の記載内容」を含んだ稟議でした。また秘密裏に1500万円が返金されるという、本契約における重要なポイントも記載されていませんでした。

また、社長派のひとりであり創業家の一員でもある本社常務は、反社長派が社長を退任に追い込もうとしている動きをキャッチ。今後の対応策を練るため別の法律事務所に相談を持ち掛け、「違法行為を正当化している途中」と述べて法律事務所の見解をうかがったところ、その答えはこれまでの認識とは180度違ったものでした。

① 税務局職員に対する現金の交付は不正競争防止法違反に該当しうる

② 交付した現金を返金してもらったとしても、最初の現金交付に関して不正競争防止法違反であることは変わりがなく、正常化につながらない

③ 現金を返金してもらい、税務局職員以外の第三者との間で本コンサルティング契約を締結してコンサルティング料を支払ったとしても、その後、税務局職員にコンサルティング料が渡されているのであれば、税務局職員へ直接現金交付していることと実質的に変わりがない

④ 税務局職員が紹介したコンサルティング会社であれば、コンサルティング契約を締結して振込送金すること自体が、新たな贈賄行為として不正競争防止法違反に該当しうる

法律事務所のこの見解により本社常務はこれまでの認識を全面的に改め、本社社長にコンサル契約の取引停止を強く提言。これによってコンサル契約の取引は停止されます。なお結局、税務調査リーダーに交付した現金約1500万円は、決算にあたり「販売費及び一般管理費」として処理されることになります。

第三者委員会の設置

社長派は改めて法律事務所を訪問。上記コンサル契約が他の取締役に不信感を生じさせているとして、本事案の対応経緯を監査等委員会を含めて情報共有し、取締役会から独立した第三者委員会による厳正な調査を行うことを助言されます。この助言に従う形で臨時の取締役会が開催され、本件について第三者委員会を設置することが決定されました。

この臨時取締役会においては初めて現金交付の事実とコンサル契約の締結が情報共有されたものの、この期に及んでも、税務局員から返金してもらってコンサル契約を締結すること、それによって違法行為を適法化できると考えていたこと、あとからコンサル会社に1500万円を返金してもらうことなどの重要情報は報告されませんでした。そして、これらの事実は設置された第三者委員会の調査によって明らかにされていくことになります。さらには2017年の現金交付、ベトナム以外の2か国での現金交付などが次々と明らかになっていきます…。

2017年の贈賄

2017年、現法は税関局より関税調査を受け、金型輸出入に関わる追徴金約17億9000万円相当の通達を受けます。同社は金型加工のライセンスを持っていたものの、同社の加工作業はごく簡単なものであるとして「加工」ではなく金型を輸入してそのまま販売する「商社行為」であり、その金型の輸入販売行為に対する付加価値税分を払っていないじゃないかという指摘でした。

現法はこのままでは追徴課税は避けられないと判断、「調整金として税関職員に現金を交付することにより追徴金の減額を行うことを考え」ます。その判断に至った経緯については詳しく書かれていませんが、これだけ読むと天馬サイド自らが贈賄の働きかけを画策したように感じられてしまいますね。。この2017年の事件は一連の贈賄行為が発覚することとなった2019年の贈賄事件の成立に深く関係しているおおもとの事案であり、どうしてこの判断に至ったのか非常に気になるだけに残念です。

現法は本社経営企画部長を通して本社社長に調整金支払いの件を相談、本社社長はこれを承認し同経営企画部長と現法社長に進め方を委ねます。このころ現法社長は自身が社長に就任して初めての株主総会を目前に控えており、その対応に追われて「極めて多忙であったため、現場に投げざるを得ない状況であった」のであると述べられています。2019年の事案と同様、十分な検討時間を与えられないと間違った判断がなされてしまう危険性が示唆されていますね。

このときの承認があったからこそ、経営企画部長は2019年のときも「以前も同じように承認を得たのだから今回も大丈夫だろう」として、事後報告の形で現法に対して現金交付を承認してしまうことになったのでした。

承認を得た現法は税関職員に現金約1000万円を調整金として支払うことを提案。その日の返答は得られなかったものの、後日その金額にて追徴額を免除する承諾を得ることとなります。約18億円の追徴課税が1000万円の調整金でゼロになるという破壊力。。ちなみに現法は事前にコンサル会社(2019年のコンサル会社とは別です)から調整金の相場として聞いていた約1650万円にて本社の承認を得ており、バッファを持って税関職員に約1000万円の支払いを申し出、一発で交渉を成立させています。この現法メンバーは違法行為そのものを別とすれば、本社への円滑なお伺い、相場観を的確に押さえた上での一発決着などサラリーマンとしては非常に優秀なのではないでしょうか…!本社社長も超多忙だったとはいえ現法から伺いが上がったその日に即承認をしていることから、日頃からその仕事ぶりは高い信頼を得ていたのかもしれませんね。

実際の現金の受け渡しは税関局調査リーダーが現法に来社し、同氏が帰る際に同氏の車に現金を積み込む形で実行されたとあります。ここでも2019年の事案のときのようなスリリングなやりとりまで記載されていないのが読み手としては残念です。

その後現法社長は本社の取締役たちに対して税関調査が指摘なく終了した旨の報告をしているものの、調整支払金に関する報告はなされず、交付された現金は現法内で「消耗品費及び修繕費」として数回に分けて処理されることで、事態はひっそりと幕を閉じたのでした。

2017年の贈賄事件の総括として、第三者委員会の調査報告書の小括を引用します。

輸出入を主たる業務とするX国天馬において、業務の根幹をなすものである通関データ管理が杜撰なものであった。また、金型の輸出入に関する税関局の指摘も、自社が行う商流において保有すべきライセンスが製造業なのか商社業なのかという、X国天馬の業務の根幹をなすものであるにもかかわらず理論的な整理が十分にできていなかった。
そのため、X国天馬は、税関局からの指摘に対し、十分な反論をすることができない状況に自ら陥り、本社の承認もあり、結果として調整金の支払により解決するという安易な手段を選択するに至った。本社としても、本来であれば、子会社から調整金の支払の相談がされた場合、それを止める役割を担う必要があるにもかかわらず、調整金の支払を藤野社長自らが事前に承認している。 2019年のX国天馬の本事案におけるA部長の判断は、2017年において藤野社長が事前承認したことが基礎となっており、その点において、2017年の藤野社長の判断は、2019年のX国天馬の本事案の発生に繋がり、コンプライアンス意識の低い企業風土の象徴ともいえ、極めて不適切な判断であった。

お気づきかと思うのですが、関連画像がもうないんすよね。

おわりに

この第三者委員会の調査により、ベトナム以外の2か国でも税関職員に対する現金交付などの疑惑が発覚することになりますが、さすがに何週末か連続で調査報告書読むのがツラくなってきたので直接ベトナムに関係がないのでここでは割愛。

調査報告書の発表後、天馬のお家騒動は燃えに燃えます。反社長派の名誉会長ら執行役員8名は、創業家の経営からの離脱と経営陣の総入れ替えを要求。それに対し社長派は「不当な経営介入は看過できない」として名誉会長を解任します。名誉会長は社長派のトップである会長の兄家族を味方につけ形勢を挽回。不利とみた会長と社長は退任するものの、会長の息子である常務(2019年の事件で法律事務所に相談した人)を社長に残すシナリオを画策。しかし監査等委員会がそれを阻み、結果的に本日現在、調査報告書に記載されている当時の取締役は全て姿を消しています。しかし常務と元CFOは執行役員として未だに名を連ねていることからも、社長派が依然として一定の権力を保っていることが伺えます。

ということで、天馬の顛末はここまで。ベトナムで当局とのやりとりに従事されているみなさまにおかれましては、贈賄はれっきとした不法行為であり、会社の屋台骨をも揺るがす大事件に発展しかねない事態であることを改めてご認識いただければと思う次第であります。

参考資料・画像引用元

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