先日、ベトナムの通り名の命名というのは昔の話だけではなくて、しっかり現在進行形で取り組んでいる話だということをお伝えしました。そこでも少し触れましたが、例えばホーチミンでは3,000もの通りが今後命名・再命名される必要があるということで、これはもう気の遠くなる作業ですわ。ひどい名前の通りは現存してるし、新しい名前を考えようにもネタ切れだし、手続きは鬼めんどくさいしということで当事者はそれはそれは大変そうです。ということで、今回は名付け親サイドの視点からホーチミンの通り名事情を見ていきたいと思います。
なお、参考にさせてもらった記事たちは少し時間の経っているものも多く、↑の3,000という数字は2016年10月時点のものです。前回ご紹介した224の新しい通りはこの3,000に含まれているので、現在ではもう少し減っていると考えられますのでそこのところご了承くださいませ!
まず、命名し直すべき通りが400ある
新たに名付けるべき通りがあるという前に、既存の通り名に問題ありまくりという話です。いきなりインパクトの強い引用をどうぞ。
ホーチミンには多くの重複した通り名、意味を持たない通り名、美しさに欠ける、実在しない人物の、物議を醸す、国家にメリットのない…(通り名がある)
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まずは重複した通り名。1本の長い通りが複数の区をまたがって通っているならわかりますが(それでも違う区の方に行ってしまう勘違いが起きやすい)、1区のLê Lợi通りとゴーヴァップ区のLê Lợi通りのように同じ市内の違う区にまったく同じ通り名が存在していることがあります。これは現在のホーチミンがもともと旧サイゴン直轄市と旧ザーディン省に分かれていたという事情もあるのですが、それが是正されないまま今に至り、混乱をきたしています。旧サイゴンと旧ザーディン省の位置関係はこちらをご参照ください。↓
さらに紛らわしいのが、同じ区の中で違う通りに同じ通り名がついているパターン。トゥードゥック区にはHiệp Bình Phước坊(町)、Linh Chiểu坊、Linh Trung坊などにそれぞれSố 17(17番)通りがあり、町名もセットに唱えないと通り名だけではもはやまったく判別がつきません。どうしてそうなった。。さらには隣のゴーヴァップ区や2区、7区にも17番通りがあるため、17番通りに行く用事のある方は細心の注意が必要です。
次に「美しさに欠ける」。その筆頭格が番号通りですね。僕自身こんなにベトナムの通り名にのめり込んでいるのは、そこに歴史的な出来事や人物の名前が散りばめられているからです。17番通りなんてもってのほかです。おっと、早くも通りが「重複」してしまった。。
続いて「実在しない人物」。これは具体的にどれを指しているのかわかりません。前回ちらっと名前を出したLạc Long QuânとÂu Cơなんかは限りなく架空の人物に近いのですが、ベトナム人なら誰もが学校で習う伝説上の人たちのはずなのでコレを指して言っているのではないと思います。
「物議を醸す」。これは負の側面も持った人物などのことですね。例えば、1区の統一会堂に突き当たるAlexandre de Rhodes通り。この通りの人物はベトナム語をラテン文字で表記するクォック・グー(Quốc Ngữ/國語)を考案したという優れた功績を持ちますが、一方で「なんだかんだ侵略者のひとりじゃねえか」という声も少なからずあり、ダナンの通りの候補になるも結局採用されなかったりしています。
通り沿いに住んでる人はどう思ってるんだ?! ひどい通り名
そして「国家にメリットのない」通り名。その定義にバッチリ当てはまらないのもありますが、一般に「ひどい」と思われる名前をいくつか紹介します。
Tên Lửa(ミサイル)通り
これはがっつり戦争を想起させる通り名ですね。今の時代にはさすがにそぐわないでしょう。こんな名前、北朝鮮にもないだろと思って調べてみたら、なんとアメリカにもありました。しかもけっこう各地にあります。。↓はノースダコタ州にあるミサイル・アベニュー。マイノット空軍基地内にあり、ここは「地球規模攻撃軍団」の大陸間弾道ミサイル部隊なる布陣が配備されているとのこと。マジモンや。。
Kênh Nước Đen(黒い水の運河)通り
「黒い水の運河」!文字通り、水が汚くてしばしば悪臭を放った運河だったようです。今でも運河の大部分は現存しており、ぜひこの目で現在の具合を見てみたいものです。しかしなぜこの名前が承認されたんだ…?! 通り沿いの不動産価格にも影響するんじゃないか(改名されたら値上がりするんじゃないか)と思ってしまうほどの悪名。
Điện Cao Thế(高圧線)通り
高圧線が上を走っていることから。現在はNguyễn Thế Truyền通りに改名されています。Googlemapでどんな道か見ていたら、なんと近くに↑(ビンタン区)とは別の「黒い水の運河通り」(タンフー区)を発見!こんな悪名まで重複さすなっ!
それからある意味「ひどい」といえるのが、スペルが間違っている通り名。けっこうたくさんあります。。↓
現在工事中です。少々お待ちください!
新たに命名すべき通りが約2,600ある
2016年10月現在、ホーチミンには仮の名前だけ付けられている通りが1,774、それに加えて810の通りが2025年までに新たに開通するとされています(うち224の通りが昨年末に無事誕生しました!)。合わせてなんと2,584!全部ゼロから考えろと言われたら死んでしまいそうです。ホーチミンの命名チームも実際のところネタ切れであることを自覚しているようで、識者からアイディアは出るものの過去のレパートリーから抜け出せてない感があります。こんな感じ。
世界の偉人、花・植物、生き物、川・島・海(荷を加えたい)、寺・遺跡、過去の土地や村、国・姉妹都市、歴史的な出来事、政治的・社会的な意味を持つ言葉、公準・公理、数字
世界の偉人、歴史的な出来事、政治的・社会的な意味を持つ言葉は命名にまつわる法令自体にも明記されており、新しいアイディアとは言えない…。
数字は先ほど言った通り言語道断であります。公準・公理というのは原子とか分子とか放物線とかそういう根源的な言葉を指すようです。これは通り名として適当かどうかは別として興味深い。。
手続きがとてもめんどくさい
そして、命名・再命名のプロセスはめっちゃめんどいそうです。ベトナム語の記事を英訳して読んでいるので正確でないかもしませんが、ざっくりこんな感じのようです。
- 区が命名・再命名を提案
- 文化体育局に下ろされ、同局がいろいろ取りまとめてから人民評議会に提出。市にも報告
- 人民評議会内で議論のうえ市に上程
- 最終的に市が決定
箇条書きにするとどうしてもさらっとしてしまうのですが、すべてのステージで行ったり来たりを繰り返しそうな、見るからにめんどくさそうな流れです。
さいごに
ということで、やはり何事も外野から「ああでもないこうでもない」と言うのは簡単だけども、中の人は大変だということを再認識した次第です。当ブログも原点に立ち返り、改めて外から好き勝手にあーだこーだ言っていくことにしたいと思います。
参考資料・画像引用元
- TP.HCM cần hơn 2.100 tên để đặt, đổi tên đường
- Đặt tên đường theo tên danh nhân hay theo số?
- Làm sao cho đủ tên đường ở TP.HCM?
- Những con đường mang tên độc và lạ ở TP.HCM
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