ベトナムのお金・お札はツッコミどころが満載です。そもそも桁が多すぎるし(日常生活レベルならまだしも、国家予算とか金融政策レベルの額になるとまじでわからなくなる)、50万ドン札と2万ドン札は色が似ていて未だに詐欺やトラブルの話を聞くし、1万ドン札のオモテ面右上の数字だけ桁区切りのピリオドがありません(これは知らない人多いはず)。
僕はいろいろな国のお札や昔のお札を集めるのが好きで、もちろんベトナムの旧札もいくつか持っているのですが、今回改めてそのベトナムのお札の歴史を調べてみたら想像以上のカオスでした。その背景には、フランスの植民地化と独立、南北ベトナムの分断、戦乱による政治的な混乱、高インフレとデノミといったベトナム特有の事情が潜んでいました。カオスでしょ。
ということで、今回はベトナムに流通した紙幣の歴史を現代から辿っていくことにします!ちなみに、かつては硬貨も流通していました(10年くらい前は、スーパーでお買い物するとごくまれに200ドン硬貨でお釣りがもらえました)が、それも紹介するとさらなる混乱を招きそうなので今回は省略させてもらいます。
なおトップ画像の100ドン札は、中央銀行設立65周年を記念して発行されたもので、決済には使えません。そもそも100ドンで買えるものもないか。同様の記念紙幣が2001年にも発行されています。
現役のポリマー紙幣 2003年~
1万ドン、2万ドン、5万ドン、10万ドン、20万ドン、50万ドンの6種類。5万ドンと50万ドンが2003年から、10万ドンが2004年から、それ以外は2006年から流通しています。偽造防止のためポリマー紙幣を採用。オモテ面はぜ~んぶホー・チ・ミンさんです。これも間違いのもと。。
裏面のデザインについては多くの人が解説しているので多くは語りませんが、1万ドンから順にバクホー油田、ホイアンの来遠橋(日本橋)、フエの皇宮、ハノイの文廟、ハロン湾の香炉岩、ゲアン省のホー・チ・ミン生家がそれぞれ描かれています。
しかし最高額紙幣が50万ドン≒2,500円というのはなんとも使い勝手が悪いですね~。ちなみに日本の1万円札は世界で9番目、世界最高額紙幣はシンガポールの1万シンガポールドル札だそうで、現在の為替レートだと85万円くらいです。
最後?の紙製紙幣 1987年~
1988年から1991年にかけて発行された500ドン札、1000ドン札、2000ドン札、5000ドン札が現在でも使われています。数年前まで200ドン札もたま~に見かけましたが、最近すっかりご無沙汰です。
下の項で紹介するように、1985年までは500ドン札が最高だったのに、わずか2年で5000ドン札が登場。その後5万ドン、10万ドンと10年の間に最高額紙幣がなんと200倍になっています。。
というのも、当時のベトナムは1978年にカンボジアへ侵攻したことで国際的に孤立し、経済危機に陥っていました。そして当時のインフレ率はというと…
まさにハイパーインフレ!最高額紙幣は200倍になってますが、その間物価は1000倍近くになっており、はっきり言って全然追いついてないです。。(計算あってるかな…。)
ベトナムドン切り下げ! 1985~1987年?
前述の通り、毎年2桁のインフレが起こっていたベトナムは1985年にデノミを行い、それまでの10ドン=新しい1ドンに切り下げられました。とはいえ、ジンバブエ(100億分の1→半年後にさらに1兆分の1)やベネズエラ(10万分の1→3年後にさらに100万分の1)に比べるとなんともかわいいもんです。むしろ今こそデノミしてほしい。。
最高額は500ドン、最小は5ハオ(hào/毫)。10ハオ=1ドンです。10ドン以下のお札はホー・チ・ミンさんのかわりにハノイの国旗掲揚台(フラッグタワー)が採用されています。
「統一ドン」(ベトナムドン)爆誕! 1978~1985年
1976年に南北ベトナムが統一され、ベトナム社会主義共和国が成立。1978年5月3日に通貨ドンも統一され、1新ドン=1北ベトナム・ドン=0.8南ベトナム「解放ドン」の価値であった。
ん?北ベトナム・ドン?南ベトナム「解放ドン」?なにやら怪しくなってきました。そう、ベトナム統一前は南北ベトナムがそれぞれ通貨を発行していたんですね。それを新国家樹立の際に通貨も統一したわけで、現在のベトナムドンがついに誕生です。そして解放ドンはちょっとレートが不利になっています。。
なお、それぞれの紙幣には1976年と印刷されていますが、実際に発行されたのは1978年です。国家誕生と同時にできてたんだぜ!と言わんばかりの、新政府のちょっと見栄っ張りな一面が見えますね。
南ベトナム「解放ドン」 1975~1978年
サイゴン陥落のすえ南北統一を迎えたベトナム。それまで南ベトナムで使われていた南ベトナムドンはこの「解放ドン」に取って代わられました。1解放ドン=500旧ベトナム共和国ドンと事実上、変則的なデノミをしてます。。同年、南ベトナム政府はインフレ対応のため新たに高額紙幣を印刷していたものの、北ベトナムによって打倒されてしまったため発行はされず、お蔵入りとなっています。
そして新たな補助単位が。シュウ(xu/樞)はドンの100分の1です。ハオの10分の1。
ベトコン紙幣 1968~1975年?
ベトナム戦争を展開した南ベトナム解放民族戦線(Mặt trận Dân tộc Giải phóng miền Nam Việt Nam)、通称ベトコンによる通貨で、中国で印刷されました。まさに戦時下のお札らしく、券面には戦闘の様子などが描かれています。
なぜ北ベトナムとは別に発行されたのか、どういう使われ方をしていたのか謎です。南ベトナムドンに北ベトナムドン、さらにベトコンドンが同時期に流通。なんとも紛らわしい!
ちなみに、愛知県や岐阜県などには南ベトナム解放民族戦線が由来のベトコンラーメンなるものがあるらしいですね。僕は知りませんでしたが、東海住みなら知らぬ者はいないとのこと。今度愛知出身の人にきいてみよっと。
番外編:ベトナム戦争下の各国のMPC(軍票)1965~1973年
ベトナム戦争下においては、アメリカ・韓国・タイがMPC(Military Payment Certificates=軍用手票、略して軍票)を発行していました。軍票というのは、軍隊が現地で物資を調達する際に地元民に支払われるのに使われ、発行した国の通貨に交換することができるものです。ただし、日本がかつて第二次世界大戦中に占領国にばらまいた軍票は日本の敗戦とともにただの紙切れとなってしまい、のちに国際問題へと発展しています。
では上述のベトコン紙幣もこのMPCかというと、ベトナムはベトナムでホーチミン・ルートにおいて別途MPCを使用しており、結局ベトコン紙幣は謎のままです。
さっぱり終わる気配がありません。次回に続きます!
参考資料・画像引用元
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