前回の記事では、現在流通している現役の紙幣からベトナム戦争下で使われていた紙幣までを紹介しました。今回はその続きで、南ベトナム(ベトナム共和国)で流通していた紙幣に絞って特集します。前身であるベトナム国で使われた紙幣については別の機会に。
南ベトナムのお札には当然のことながら敵国の大将であるホー・チ・ミンは一切出てこず、社会主義的な臭いも一切なく、表情豊かでスタイリッシュです。また、デザインされたものの発行されずに終わったタイプも多かったり、謎に同時期に2種類発行されてみたりと、なかなかロマンがそそられます。それでは見ていきましょう!
幻の高額紙幣 1975年
前回の記事でも少し触れたように、南ベトナム政府はインフレ対応のために新たに印刷していたものの、北ベトナムによって打倒されてしまったため発行されず、お蔵入りとなってしまった高額紙幣です。ホー・チ・ミンが描かれていないのが本当に新鮮。。5000ドン札はカッコいいし、1万ドン札は味があるし、1000ドン札は中国っぽい。
この1000ドン札に描かれているお方はチュオン・ディン(Trương Định/張定)という、阮朝時代の官僚です。時の皇帝に逆らい、コーチシナに侵攻していたフランスに対してゲリラ戦を率いた人ということで、当時の南ベトナムのみなさまの嫌仏感情が見てとれます。。
動物さんシリーズ 1972年
ベトナム戦争終盤の1972年には動物さんシリーズを発行。下に紹介する国家銀行ビルシリーズから2~3年での大刷新です。前のやつ、気に入らなかったのかな…。
20ドン札から順に馬、水牛、鹿、トラ、ゾウ。ベトナムにもトラさんやゾウさんがいたとは驚きです。調べてみるとどちらも絶滅の危機に瀕しており、ゾウは1980年には国内に2000頭いたのがいまでは100頭以下、トラにいたっては数年前でわずか5頭しか残っていないとされています。なお、サイもいたそうですがこちらは残念ながら2010年に絶滅しています。
この動物さんシリーズも、南ベトナム陥落とともに絶滅しちゃいましたね。
国家銀行ビルシリーズ 1969年
1969年には統一会堂に代わって国家銀行ビルが主役のシリーズが登場します。ウラ面の模様もなんとなくハイカラな感じです。しかし、後述する英雄シリーズからこれまたわずか3年での交代劇。南ベトナムさん、どうしてそんなに心移ろいやすいの??
英雄シリーズ 1966年
当ブログでも過去に登場している英雄シリーズ。特にグエン・フエ(Nguyễn Huệ/阮恵)とチャン・フン・ダオ(Trần Hưng Đạo/陳興道)はベトナムの通りについている名前としても非常に有名です。
100ドン札の肖像はレ・ヴァン・ズエット(Lê Văn Duyệt/黎文悦)という阮朝建国の功績者のひとりで、阮朝初代皇帝グエン・フック・アイン(Nguyễn Phúc Ánh/阮福暎)のもと南メコンデルタを統括、のちのサイゴンの発展に寄与した人物です。
そんななか50ドン札だけ異様に浮いた存在となっており、オモテもウラも肖像なしの模様のみ、透かしもなしという結果的に唯一無二の特徴を有しています。
バラバラシリーズ 1964年
同じ年に発行された割にはフォントもスタイルも統一感がなく、なんとなくバラバラとした印象を抱くシリーズ。500ドン札のオモテ面はベトナム歴史博物館というシブいチョイス。サイゴン植物園の中にあります。ホーチミンにいた当時はまったく興味がなかったけど、今となっては行ってみたい!
謎の同年再発行 1955年
1955年には南ベトナムとして初めての紙幣が発行されたわけですが、なぜか同年に再発行されており、2パターン存在しているように見えます。そこについて詳しい情報がなく、どっちが存続していたのか、あるいはどっちも流通していたのか謎です。
そしてここにもデザインはされたものの発行に至らなかった紙幣があります。そのうち1000ドン札の仕上がりは素晴らしく、現物を手に入れたくなってしまいます。と思ったら、2020年のオークションで18,000ユーロ(230万円くらい)で落札されてました。。お目が高いと言ってくれ。
南ベトナム初の紙幣 1955年
記念すべき南ベトナム初の紙幣。当時は完全に農業国だったことがわかるデザインです。脱穀したり米や塩を干したりトラクターを運転したりといった様子がうかがえます。500ドン札にはフエのティエンムー寺が描かれていますが、フエもギリギリ南ベトナムの範囲でした(南北ベトナムを分ける北緯17度線の南約100kmに位置)。
南ベトナム、20年しか存続しなかったのに発行紙幣多すぎ…。ですが、それぞれ特徴的でなかなか面白かったですね。次は北ベトナム…!
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