ベトナムと聞いて真っ先にフォーを思い浮かべる日本人は多いと思います。ベトナムは麺料理がたいへん豊富で、米粉から作られる米麺を中心に10種類ほどあるといわれています(諸説あり)。と同時に、ベトナムは即席麺(インスタントラーメン)においても世界有数の一大市場であり、2021年にはひとり当たりの消費量でついに世界トップに躍り出るなど近年さらに存在感を増してきています。
今回はそのへんの事情を各種数字を踏まえて追っていくとともに、いまやベトナム不動のマーケットリーダー・エースコックや、ベトナムに来たことがある人なら誰しも一度はシメの麺として食べたことがあるであろう、往年の人気商品にも触れていきたいと思います。かねてより構想を温めていた意欲作をぜひご覧あれ。(気合い入れて書くとだいたいアクセスは伸びない。。)
すげー簡単に書いた前回作はこちら。↓ 麺つながりで今作を書くきっかけになりました
直近、国別消費量で世界3位、ひとり当たりで世界一にランクアップ!
さっそく数字のほうを見ていきましょう。以下が2021年における世界トップ5か国の即席麺消費量の推移です。
ベトナムは人口増と順調な経済成長を背景に近年着実に消費量を増やしてきていて、2020年から2021年にかけては主要都市のロックダウンや時短営業の影響もあってか爆発的に数字を積み上げてきています。ここ数年60億食弱でほぼ横ばいに推移してきた日本(とインド)をこの2年で一気に追い抜き、もはや完全に突き放してしまいました。
結果、総消費量で世界第3位の市場へと大きくジャンプアップ。1位の中国、2位のインドネシア、4位のインドはそもそもの人口が多く(人口では中国が世界1位、インドネシアが4位、インドが2位)、人口ランキングでは15位のベトナムがここにランクインするのは驚異的といえます。2021年にはついにひとりあたりの消費量では初めて世界一にまで昇り詰めました。年間ひとり平均87食というのも、まわりのベトナム人の生活を見ているとじゅうぶん納得の数字。なお、ひとり当たり消費量では2位が韓国(73食)、3位は意外にもネパール(55食)だそうです。
ちなみに誰がこんなマニアックな統計を出しているかというと、「世界ラーメン協会」なる団体が存在するのです。日清食品の創業者である安藤百福氏の提唱により1997年に設立された業界団体で、現在世界23か国と地域の145社・団体が加盟する一大組織となっています。入会金として、会員ランクによって最大1万ドル、会費が最大7,000ドル(2年分)とそれなりに高いハードルが設定され、数年に一度はアジアの都市を中心に総会まで開かれているということで、即席麺産業の発展に真剣に向き合っているようです。
ベトナム国内はエースコックの独壇場!
話をベトナム国内に移します。世界有数の即席麺市場にあってその7割を握っているのは上位わずか3社。その中でも圧倒的に抜きん出ているのはなんと日本のエースコックです。日本国内ではシェア4位に甘んじている同社ですが、ベトナムで1995年に即席麺の生産販売を開始して以降その市場シェアは脅威の約50%に達し、主力商品「ハオハオ(Hảo Hảo)」は発売した2000年から21年間で累計300億食をベトナム国内で売り上げました。ハオハオの国内認知率はほぼ100%を誇り、一説にはエースコックはベトナムの会社だと思っているベトナム人も一定数いるとか。
そんなエースコックベトナムも操業当初はかなり厳しかったようです。麺を揚げる油の品質が悪く健康被害を起こしていた状況を危惧したベトナム政府の声掛けに呼応して、丸紅と共同でベトナム国営会社との合弁会社を立ち上げるも、当時はまだドイモイ政策の初期段階。日本品質を維持できる原材料がベトナムになく日本や近隣諸国から原材料の95%を調達した結果、利益ゼロでも当時売られていた1個5円のローカル商品の3倍である15円を下回ることができなかったといいます。発生当初より品質の高さから高評価を得てはいたものの、価格も高くて数が捌けず2000年頃まで赤字の状態が続いていました。
会社の業績をひっくり返す大ヒット商品ハオハオが生まれたのはちょうどその頃です。従来の自社商品の半額、他社より2〜3割高に価格を抑えたハオハオは工場を24時間フル稼働しても生産がまるで追いつかない状態に陥るほどバカ売れしたそうですが、それを開発したのがベトナム人社員というのも驚きです。現地化がうまくいった好例でしょう。
今や完全にベトナムの即席麺市場を掌握したといえるエースコックでさえ、非常に苦しい時期があったというのは現地で日々悪戦苦闘している日本人にとって励みになる話です。同様にベトナムのバイク市場を席巻しているホンダもかつては苦境に陥ったことがありました。
とはいえ近年競争は激化しており、2010年頃には国内シェア7割を誇っていたエースコックも前述の通り直近5割ほどまでシェアを落としてきています。それでも凄まじいことに変わりはないですが。。
往年の「えび麺」はいまも細々と鍋の中に潜む
ベトナムの昔ながらの即席麺といえば通称「えび麺(mì tôm)」、正式名称「ミリケット(Miliket)」。ベトナムで鍋料理を食べたことのある人は一度は見たことがあるのでは。今日でも鍋のシメとしてかなりの確率でお目にかかる一品です。
1980年代、このえび麺は1個500〜1,000ドンで売られていました(単純に現在の為替に直すと3〜6円!)が、ベトナム戦争後の貧困にあえいでいた当時としては高級品の部類で、特別な機会でのみ消費されるものでした。誕生日パーティーで家族みんなで食べたり、北部の人がホーチミンへ行った際のお土産として持ち帰るような品物だったとか。
製造元は国営会社2社が過半を有するコルサ・ミリケット社(Colusa – Miliket)。エースコックが大躍進を遂げる前の1990年代までは国内シェアの8〜9割を握り絶対的な存在を誇っていました。しかし経済の開放後続々と参入してきた競合にそのシェアを奪われ続け、近年国内シェアは3%前後にまで落ち込んでいます。
2匹のえびが向かい合った特徴的なデザインを施した紙製のパッケージは、1970年代の発売以来ほとんど変わっていないそうです。個人的にも大好きで、これからも生きた化石として残り続けていってほしいと陰ながら祈っています。(ただし、このデザインはベトナムで初めて発売された即席麺のパクリで、商標権などない当時ほかの競合他社もこぞってデザインを真似したようです。)
ついに世界のNISSINが覚醒か⁈
エースコックから遅れること20年弱、日清食品も2012年にベトナムでの現地生産を開始しています。2016年には世界の大ベストセラー・カップヌードルをベトナムでも発売しますが、どうやら未だエースコックの牙城は崩せないでいる模様です。
そんな日清が今年に入り、満を持して袋麺のラ王を市場に解き放ちました。味・価格ともにまさに革命的な商品と現在在住の日本人の間では話題になっていますが、やはりベトナム人の感覚からすると高い。現在の袋麺市場が大体4,000~5,000ドン(20~30円)に対して13,000ドン(約75円)ということで、相場の約3倍のお値段。過去のハオハオの例を見るにベトナム人が支払えるプレミアムは2〜3割までとすると、起死回生の一打となるにはもう一声ふた声といったところでしょうか…。
おわりに
ベトナムから日本にお土産を買って帰ろうとするとき、非常に悩むと思います。日本ってホント何でも揃ってるし食べ物も美味い。ベトナムのお菓子は見た目も怪しいし大しておいしくもないので、困ったら定番のライム塩に合わせてインスタントのフォーをオススメしています。あえてエースコックや日清のラーメンを買っていってもネタとしては面白いと思いますが、ラーメンだったら↑のえび麺をぜひトライしてみてください!
参考資料・画像引用元
- 世界ラーメン協会
- サービス産業の国際展開調査;エースコック株式会社
- Saigon’s Oldest Pre-Doi Moi Relic, Hai Con Tôm Noodles, Is a Living Fossil
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