ベトナム全国で目にするグエンチャイ通り。特にホーチミンでは「ホーチミンの原宿」とも呼ばれ、ファッションストリートとして有名ですが、個人的には「日系企業がたくさん入ってるヘンテコな形と模様のビル」のイメージが強いです。。ハノイでは都市鉄道2A号線が上を走っている大通りになっていますね。
当のグエン・チャイさんは、原宿でウェイみたいなノリとは真逆の高貴なお方(たぶん)。軍事戦略家・政治顧問・外交家としてベトナム独立に大きく貢献した一方で、儒学・史学・地理学・音楽にも精通。おまけに詩人としても名高いという激ヤバ超マルチ&ハイスペックおじさんであられます。そのあまりの完璧さが災いし悲劇の最期を遂げてしまうのですが、今なおベトナム人からは、もっとも愛される偉人のひとりとして語り継がれています。
データ
- 名前:グエン・チャイ(Nguyễn Trãi/阮廌)
- 生没年:1380~1442
- 時代:胡期~後黎朝
- 出身:ハノイ
- 名前を冠した通りの所在地:1区(ホーチミン)、ドンダー区他(ハノイ)
- 一言でゆってよ:なんでもできすぎて恨まれちゃった人
明による支配と投獄、レ・ロイとの出会い
グエン・チャイはもともと王宮の生まれですが、最高位の官僚であった祖父の死去に伴って村に戻り、そこから科挙試験に合格して王朝に仕えます。科挙とは中国由来の官僚試験で、ベトナムは実は世界でもっとも最近まで科挙が続いていた国だそうです。試験は3年に1度、記録の残る340年弱のあいだの合格者はわずか1,300人ほど。3年で12人しか受からんやないか…国Iとかメじゃねえっす。官僚が世襲でないなか、祖父のみならず父親も科挙官僚というスーパーエリート家系ですね。。
父親とともに王朝に仕えていましたが、ほどなく明(中国)の侵攻により王朝は瓦解し、グエン・チャイも捕らえられて10年もの間監禁されることになります。そして明はベトナムを併合し、民衆に言語や服装・髪型まで中国式を強制するなど、徹底した同化政策で国を支配します。私有財産は没収、重税を課され、なかには明で強制労働させられる人まで。当然民衆の不満は高まり、明に抵抗した反乱運動がいくつも起こったものの、いずれも鎮圧されています。
グエン・チャイは釈放後しばらくの放浪期間を経て、当時地方の一豪族であったレ・ロイ(Lê Lợi/黎利)と出会います。レ・ロイはベトナムの独立のため反乱を企てますが、グエン・チャイは彼の指導者としての素質を見抜き、ともに戦うことを決意します。
レ・ロイのブレーン・明との交渉役として活躍
レ・ロイ軍は10年間にわたる闘争のすえ明の撃退に成功、明からの独立を勝ち取ります。当初は敗戦を重ねたものの、レ・ロイとグエン・チャイはひたすらにベトナムの独立を掲げ、ベトナムの民衆のみならず明軍の指揮下にあるベトナム人組織の地方軍をも味方につけたことで、戦局を盛り返していきました。「敵の城を降伏するよりも、こころを征服したほうがよい」――グエン・チャイがレ・ロイに宛てた書簡のひとつにはこのような記述が残っています。
グエン・チャイは軍のブレーンとして戦術・戦略をレ・ロイに授ける傍ら、明との交渉役として平和的な解決に努めました。撤退する明にとどめを刺したいと主張する将軍たちのなか、グエン・チャイは明の撤退に際して安全を保証。その後レ・ロイが創建した後黎朝(後レ朝)と明との間に国交が樹立され、グエン・フエ(Nguyễn Huệ/阮惠)の時代まで中国との友好関係は維持されることになります。
宰相として国を再建するも、周辺から恨みを買い処刑される
独立したレ・ロイは後黎朝を創始し、グエン・チャイはその宰相として、疲弊した経済・社会再起の政策をつくりあげていきます。晩年には、重要な拠点である東方と北方の2地方の統括も任じられています。
しかしレ・ロイ死去後、即位した2代目レ・タイ・トン(Lê Thái Tông/黎太宗、レタントン通りで知られるレ・タイン・トンの父)の毒殺を画策したという疑惑をかけられ、なんと親族300人とともに処刑されてしまいます。これはグエン・チャイの清廉潔白な性格が、権力闘争に明け暮れる官僚の恨みを買ったために罪を着せられたものと言われています。
どんなに民衆に支持され、国の再興に尽くしても、周囲から妬まれ一族皆殺しに遭ってしまったグエン・チャイ。その後レ・タイ・トンの子レ・タイン・トン(Lê Thánh Tông)の時代に王朝はふたたび繁栄しますが、レ・タイン・トンの死後はまた官僚同士の権力争いによって衰退の一途を辿っていくことになるという…。いつの時代も正しい治世というのは本当に難しいものだと痛感しますね。。
参考資料、画像引用元
- 物語ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム(小倉貞男著、中公新書)
- VTV.vn、Huyện Thọ Xuân
- Wikipedia
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